介護士の仕事は休みが取れないことが多く、肉体的にも大変です。
そこで「介護士として培った知識や資格を活かして転職できないか?」と考える方は少なくありません。
今回は、介護士としての知識を生かせる職業として「福祉美容師」という職業をご紹介します。
その名の通り、介護や支援を必要とする方を対象とする美容師です。
世間的にはあまり知られていない福祉美容師ですが、今後需要の拡大が期待できる職業です。
「福祉美容師ってどんな仕事?」
「福祉美容師になるにはどんな資格が必要なの?」
といった疑問に詳しくお答えします。
ぜひ転職先の候補として、福祉美容師を視野に入れてみて下さいね。
目次
1.どんなことをするの?福祉美容師の仕事内容
福祉美容師は美容室に行くのが困難な方たちに対して、カットやカラーといった施術を行います。
例えばご高齢で足が悪く、美容室まで行けない方などが対象です。
このように、お客さんにはそれぞれの事情があり、一般的な美容院に行けません。
福祉美容師は、そんな方たちの救世主ともいえる存在です。
もちろん、施術をするときにはお客さんの状況に合わせた施術を行います。
具体的には、長く座っていられない方には素早い施術が求められる状況になるはずです。
ときには、寝たきりで起き上がれない方にはベッドに寝た状態のまま施術を行うことも。
このように福祉美容師専門的な技術や知識を駆使し、美容院に行けないお客さんに対してカットやカラーを提供する専門家といえます。
そして施術の終了後には、1日の作業報告書を作成します。
報告書を書く際は、その日に施術したお客さんのことを思い返しながら施術した内容や訪問場所などを記載しておくのです。
福祉美容師の1日は、この報告書を提出して終了となります。
このように、福祉美容師は美容室に通えない方のために、依頼に応じて訪問美容を行います。
では、福祉美容師はどんな場所に訪問するのでしょうか。
福祉美容師の主な訪問先は以下の通りです。
- お客さんの自宅
- 老人ホームなど介護施設
- 病院
ここからは上記の訪問先について、それぞれ詳しくご紹介します。
訪問先1.自宅
1つめの訪問先が、お客さんの自宅です。
例えば足が不自由で美容院に通えない方や、怪我を療養中で美容院に行けない方などの自宅に訪問します。
このような場合、同居のご家族やご本人から依頼を受けて訪問することが多数。
場合によっては自宅のシャワーなどといった道具を借りられる場合もあるので、どのように施術を行うかは事前に相談して決定します。
ただし必要最低限の仕事道具は、いつでも携帯して持っていくのが一般的です。
訪問先2.老人ホームなど介護施設
老人ホームなどの介護施設に訪問して施術するケースもあります。
介護施設に入居しているのは高齢の方や、身体の不自由な方が大半。
そして訪問する際は、一度に複数の入居者の方を施術するのが一般的です。
複数の方としっかりコミュニケーションを取りながら、1人ひとりのカットを行ないます。
入居者の方には、福祉美容師の施術を心待ちにしている方も少なくありません。
一般的な美容師と同様、施術後には「綺麗になった」と喜んでもらえる場面も多くあります。
さらに介護施設にはリクライニングベッドや車いすのまま入れるシャワールームなど、介護に必要な器具が多く揃っているのも特徴です。
そのため、施術もしやすいでしょう。
また、介護施設への訪問美容は定期的な契約が一般的です。
もし、福祉美容師として安定したお仕事が欲しいなら、メリットの大きい訪問先といえるでしょう。
訪問先3.病院
病院から依頼を受けて訪問美容することもあります。
この場合のお客さんは、病院に入院している患者さんです。
例えば、車いすの方や身体が不自由な方などに対して施術を行います。
介護施設と同様、入院している患者さんには中々髪を切る機会がありません。
そのため、定期的な訪問美容は患者さんにも歓迎されることが多数。
仕事のやりがいにもつながるでしょう。
また、病院は高齢者だけでなく若い年齢層の方も入院しています。
お客さんのリクエストによる、施術のバリエーションも楽しむこともできるはずです。
病院への訪問美容は老人ホームと同様、定期的な契約となるパターンも少なくありません。
コンスタントに仕事を取れるという面では非常に安心です。
場所によっては病院でなく、薬局が福祉美容師に訪問美容の依頼を出す場合もあります。
2.介護士から福祉美容師になるには?
介護士から福祉美容師になるには、複数の資格が必要になります。
その中でも無くてはならないのが、「美容師免許」です。
この資格があって初めて、お客さんの髪を洗ったり切ったりすることができます。
また、福祉美容師には福祉美容師に関係する認定資格も必要です。
福祉美容師は専門性の高い職業なので、こうした資格の取得が奨励されています。
認定資格は国家資格と違い、NPO法人や厚生労働省認定の協会から発行されるものです。
そのため国家資格に比べて手軽かつ、費用も安く取得できます。
ちなみに福祉美容師の認定資格で問われるのは、主に「介護に関する知識」です。
つまり既に介護士や介護福祉士として勤務されている方には持ち前の専門知識があるので、比較的取得しやすい資格といえるでしょう。
そこで、ここからは福祉美容師に必要な資格をそれぞれご紹介していきます。
福祉美容師に必要な資格は美容師免許と、認定資格の2つです。
この認定資格は複数あるので、その中から3つ抜粋してご紹介します。
- 美容師免許
- 福祉理美容師
- 訪問福祉美容師
それぞれ詳しくご紹介していきます!
資格1.美容師免許
美容師免許は訪問美容の施術に必須となる国家資格です。
福祉美容師も、一般的な美容師と同じ美容師免許を必要とします。
受験資格
美容師免許の国家試験を受けるには、「美容学校の卒業」が必須です。
それ以外に、年齢制限や学歴などといった条件はありません。
資格取得方法
美容師免許を取得するには、まず美容学校に入学する必要があります。
美容学校に入学してから免許取得までの流れは以下の通りです。
- 美容学校に入学
- 入学から最短2年で卒業
- 美容師免許の国家試験を受験(筆記・実技)
- 合格後、美容師免許の申請手続き
- 申請後、約1か月で免許を取得!
ちなみに、卒業見込みがあれば在学中であっても国家試験を受験することが可能です。
一般的な美容学校生は卒業年の2月に実技試験を受験し、3月に筆記試験を受けます。
この合格発表は3月末に行なわれることが多く、そこから美容師免許の申請に入るという流れです。
また美容師免許の国家試験が受けられるのはは年に2回で、2月と8月となります。
最短で免許を取りたい方は、美容学校の在学中に受験できるようなスケジュールを組んでおきましょう。
資格2.福祉理美容師
福祉理美容師はNPO法人日本理美容福祉協会で取得できる認定資格です。
寝たきり状態など、介護が必要な方にも施術できるような技術や知識を身に付けることができます。
介護士と似た学習内容も盛り込まれているので、福祉業界で勤務していた方にとっては取得しやすい資格かもしれません。
受験資格
この資格を取得するには、美容師免許を持っていることが必須です。
その他に特別な条件はありません。
資格取得方法
公式サイトからお伝えすると、福祉理美容師は以下のような流れで取得します。
- NPO法人日本理美容福祉協会の「福祉理美容師コース」を申し込み・入金
- 郵送されてきた教材を自宅で受け取り
- 自宅学習開始
- 問題集の回答を持参して2日間の学習プログラムを受講
- 合格したら受講完了
- 感想レポートを作成
- 修了証書が発行されて資格取得完了!
この資格を取得するには、自宅での問題集解答と会場での学習プログラムの受講が必要です。
資格取得にかかる費用は全部で27,000円。
自宅で解く問題集は、79点以上で合格とされています。
資格3.訪問福祉美容師
訪問福祉美容師は、一般社団法人日本訪問福祉理美容協会で取得できる認定資格です。
病気で療養中の方や、外出の困難な方などに対して一般の方と同様に施術を行う技術を身につけられます。
受験資格
訪問福祉美容師の資格を取得するには以下のいずれかの条件に当てはまっていることが必要です。
- 美容師免許を持っている
- 理容師の国家資格を持っている
- 厚生労働省指定の美容師理容師養成教育機関にて卒業・単位取得見込みが証明できる
つまり美容師免許を持ってさえいれば、受験資格を満たしているということです。
時間を無駄にしたくない方は、美容学校の卒業前にこの資格を取得しておいても良いでしょう。
資格取得方法
訪問福祉美容師の資格は、以下の流れで取得できます。
- 一般社団法人「日本訪問福祉理美容協会」に講習を申し込み・入金
- 講座に参加(1日)
- 即日認定証を交付
ちなみに受講にかかる費用は25,000円と比較的安価です。
講習も1日で、8時間だけという手軽さもメリットの1つといえます。
そして試験はなく、講座を受講するだけで資格が取れるのも魅力的です。
受講後には即日認定証を受け取れるので、すぐに転職を考えている方にもおすすめできます。
ただし講座を開催する会場が全国8箇所しかなく、場所が限られてしまうのが難点と言えるでしょう。
受講内容
受講内容は以下の通りです。
このように、福祉美容師に必要な受講内容がひとまとまりになっています。
- 訪問美容の概要
- 介護・福祉・医療における基礎知識
- 訪問美容の仕事内容について
- 訪問美容の道具の扱いについて
- 施術のポイント
- 高齢者との対話におけるコツ
- 訪問美容における感染症予防や消毒について
これらを8時間で凝縮して学べるので、非常に手軽な認定資格です。
3.福祉美容師のお給料
仕事を選ぶうえで気になるのが収入です。
厚生労働省の平成27年度における統計によれば、美容師の所定内給与月額は「215,700円」とされています。
これは福祉美容師に限らず、全ての美容師における平均的な統計です。
しかし福祉美容師においても、ここから大きくお給料が上下することはないでしょう。
また、年間賞与は同年の美容師全体において「61,500円」です。
ただし賞与の規定は所属する会社によって異なります。
そのため、転職活動をする際に給与規定で賞与の多い会社を選べば問題ないでしょう。
ちなみに、これらのデータは全て企業に所属して美容師になった場合の収入です。
自営の福祉美容師や、フリーランスとして営業している美容師の収入は加味されていません。
フリーの福祉美容師として仕事を多く獲得できれば、平均額以上に稼ぐことも夢ではないでしょう。
4.介護士から福祉美容師になるメリット
福祉美容師には、介護士にはないメリットが数多くあります。
福祉美容師になるメリットは以下の通りです。
- 自分のスケジュールを立てやすい
- 土日休みが取れる場合もある
- 訪問先から直帰も可能
- 社会への貢献度が高い
それではここから、それぞれのメリットを詳しくご紹介していきます。
メリット1.自分のスケジュールを立てやすい
福祉美容師は、自分のスケジュールを立てやすいというメリットがあります。
なぜならある程度事前に仕事の予定が把握できるからです。
先ほどご説明したとおり、福祉美容師はお客さんの元へ自ら訪問して施術します。
つまり事前に依頼が入り、スケジュールを決めたうえで働くことができるのです。
自分の予定に合わせて訪問日を調整することもできるので、スケジュールの自由度が高いのも魅力の1つといえます。
ちなみに一般的な美容師の場合は、次から次へと来るお客さんをさばく必要があります。
ときに一度に2人以上のお客さんの施術を担当することもしばしば。
さらに、閉店間際にお客さんが来ればそれに対応しなくてはなりません。
これに対し、福祉美容師ならお客さんが多くて焦ることも、就業時間外まで仕事が伸びることも少ないです。
心にゆとりを持って勤務できるのが大きなメリットといえます。
メリット2.土日休みが取れる場合もある
福祉美容師は、土日休みが取りやすいというメリットがあります。
なぜなら、福祉美容師は平日に依頼が入ることが多いからです。
特に病院や介護施設への訪問依頼は、先方の営業に合わせて平日に入ることが多数。
そのため、土日に安定して休みを取れます。
メリット3.訪問先から直帰も可能
福祉美容師は訪問先から自宅に直帰することも可能です。
その日の決まったスケジュールをこなした後は、事務所に戻らずそのまま帰宅というパターンも少なくありません。
ただし、直帰の可否は入社する会社によっても異なります。
入社前にこうした勤務ルールについては確認しておくと安心です。
メリット4.社会への貢献度が高い
一般的な美容師とは異なり、福祉美容師は非常に専門性の高い職業です。
「福祉」という側面では介護士の仕事と似通っている点が多く、社会貢献度の高さが特徴といえます。
そのため、お客さんのご家族や施設の方から「ありがとう」と心からお礼を言われることもしばしば。
人助けや、社会貢献にやりがいを感じる方にとっては、非常に張り合いのある仕事といえるかもしれません。
5.福祉美容師になるデメリット
当然、メリットがあればデメリットに感じることもあります。
福祉美容師になることのデメリットは以下の通りです。
- 美容師免許が必要
- 介護度により施術を変える必要がある
- 訪問する手間がある
ここからはそれぞれのデメリットについて詳しくご説明していきます。
デメリットの解決策やアドバイスも必見です。
デメリット1.美容師免許が必要
美容師経験のないところから福祉美容師を目指す場合、まずは美容師免許の取得が必要です。
美容師免許の取得には美容学校での勉強が必須となります。
美容学校に通って美容師免許を取るため必要な時間は、最短で2年間。
つまりある程度、時間に余裕を持って準備を進める必要があるということです。
初心者にはハードルが高いように思えてしまいます。
しかし、美容師免許を取るためには年齢制限や学歴の条件などは一切ありません。
また、美容学校も生活スタイルに応じて選ぶことができます。
例えば働きながら夜間の美容学校に通ったり、通信教育の美容学校を選択して隙間時間で勉強することも可能です。
さらに通信の美容学校は費用も他に比べてかなり安いので、出費を抑えたい人にも便利でしょう。
デメリット2.介護度により施術方法を変える必要がある
福祉美容師は、お客さんの介護度に合わせた施術をする必要があります。
例えば、中には寝たきりのお客さんもいるはずです。
その場合は、ベッドに寝たままの状態で散髪をする場合も。
また、長時間座っているのが苦痛に感じる方の施術は、スピーディーに終える必要があります。
このように、専門的な知識や技術を駆使して臨機応変に対応していくことをデメリットに感じる方もいるかもしれません。
しかし、老人ホームの定期的な訪問であれば、毎回ほとんど同じお客さんを相手することになります。
そのため、特殊な施術方法にもある程度の技術と知識を得ることができるでしょう。
さらに病院や介護施設であれば、施設内のスタッフさんもいるので万が一の時にも安心です。
さらに、福祉美容師用の特殊な便利グッズも多く販売されています。
こうした道具の力を借りることで、専門的な対応が必要となる施術も楽になるでしょう。
デメリット3.訪問する手間がある
福祉美容師はお客さんの元へ訪問する仕事です。
そのため移動に時間と手間がかかります。
訪問時には散髪に必要な道具一式を持っていくので、時には大荷物になってしまうこともあるでしょう。
スーツケースを持参して客先に訪問することも少なくありません。
また、依頼に応じて訪問先は変わります。
そのため一か所で腰を据えて働きたい方にとっては、少々落ち着かないかもしれません。
ただし老人ホームや病院を契約を結ぶことで、ある程度自分の仕事をルーティン化することができます。
6.福祉美容師の職場選びの基準
最後に、福祉美容師として職場選びを失敗しないための基準をご紹介します。
福祉美容師の職場選びの基準は以下の2つです。
- 給与・手当を確認しておく
- 勤務体系を確認しておく
ここからはそれぞれの基準を詳しくご説明していきます。
基準1.給与・手当を確認しておく
まず、会社ごとの給与や手当はしっかりと確認しておきましょう。
お給料は職場探しにおいて非常に重要な基準です。
ちなみに先ほどご紹介した通り、平成27年における美容師全体の平均月収は「215,700円」でした。
職場を探す際は、基本給がこの額を下回らない会社を探すのがベターです。
また、賞与の平均は美容師全体で年間「61,000円」程度という統計でした。
賞与は会社により、金額に大きく差があります。
そのため、会社に目星が付いたら、「賞与が1年に何回支給されるのか」、「最低支給額は月給何か月分なのか」などといいったことを確認しておきましょう。
もし月収も賞与も極端に少ない会社があれば、業務内容の詳しい確認が必要です。
基準2.勤務体系を確認しておく
働くにあたり、長続きのポイントは「しっかり休みが取れること」です。
そのため勤務形態を事前に確認しておきましょう。
確認するポイントは以下の通りです。
- シフト制か曜日固定の休みかどうか
- 土日に休みは取れるか(希望する場合)
- 年間休日は何日か
- 1日に何軒の訪問先を回るのか
- 主な訪問先はどこか
肉体的に疲れてしまわないためにも、1日当たりの訪問件数やお客さんの情報などを合わせて事前に把握できるとよいでしょう。
自分に合った休みの取り方ができて、なおかつ体力にも余力を残して仕事ができる職場が理想的です。
7.新しいキャリアを目指すのに福祉美容師は最適
美容師免許の取得や各種認定資格の取得については、ハードルが高いと感じた方もいるかもしれません。
しかし、どんな仕事に就いたとしても、0からのスタートになるのは同じことです。
むしろ新たな資格を武器に違う業種に飛び込めば、自分自身のキャリアアップにも繋がります。
もし将来的にまた転職する機会があったとしても、多彩な就業経験があればあるほど有利になるでしょう。
より理想的な人生プランを考えるうえでも、福祉美容師への転職は今がチャンスです!
まとめ
福祉美容師になるにはどうすればいいのかをご紹介しました。
福祉美容師は一般的な美容師よりも激務になることが少なく、メリットの多い職種です。
高齢化社会である日本において、今後はさらに需要が伸びるでしょう。
ぜひ今回ご紹介した内容を参考に、自分に合った働き方ができる職種の1つとして福祉美容師への転職を検討してみてください。