重篤な疾患を抱えた患者さんが入院するICU(集中治療室)。
一般病棟とは異なる部分がICUには多くあります。
この記事では、ICU看護師の仕事内容やICU看護師になるために必要な資格・適性を紹介。
ICUで働くことを具体的に想像できるようになるでしょう。
これからICUの看護師として働きたいという人は、ぜひ最後までご覧ください。
目次
1.ICUってどんなところ?
ICUとは「Intensive High Unit」の頭文字で、日本語訳は集中治療室(特定集中治療室)。
重篤患者の救命のために24時間体制で管理し、必要な治療を施します。
病院の中で最も集中して医療を提供するため、緊張感が高いのが特徴。
多くの医療従事者たちがチームとなり、少しでも早い退院や社会復帰のために命の最前線と向き合っています。
歴史が浅いICU専門医師や看護師は、他の科に比べるとまだまだ十分と言えません。
少子高齢化が進む日本では、さらなるICU医師や看護師の充実化が求められている現状です。
2.ICUで働く看護師の特徴
ICUの看護師は、重篤な疾患のある患者さんの社会復帰の第一歩になる場所を提供します。
そのためICU看護師には以下の2つの特徴があるのです。
- 知識が豊富で病態生理に精通
- 患者や家族の心のケアが重要
それぞれ見ていきましょう。
特徴1:知識が豊富で病態生理に精通
ICUで働く看護師は、看護師の中でも一番病態生理に精通した人という特徴。
なぜなら、ICUは疾患の種類に関わらず重篤な疾患のある患者さんを受け入れるからです。
患者さんの中には複数の疾患を抱えている人もいるため、患者さんの全身から総合的に管理する幅広く深い知識が必須。
豊富な知識を生かしてモニター数値から患者さんの状態を即時に読み取ることで、急変しやすい患者さんの命を救います。
ICU看護師はときに「ミニドクター」と呼ばれるのは、病院の中でも一番知識や病態生理に精通しているためです。
特徴2:患者や家族の心のケアが重要
ICUで働く看護師は、患者さんやその家族の心のケアを特に重要という特徴があります。
緊張度の高い患者さんやその家族は、不安や心配など多くのストレスを抱えているからです。
ストレスを少しでも軽減できるように、患者さんや家族の抱いている感情を全て聞いてあげて、寄り添ってあげましょう。
それから、面会時間を長くとるように調整することや、少しでも不安や心配を和らげてあげるように声かけをすることなども心のケアにつながります。
一般病棟に比べてICUで働くと心のケアを求める患者さんやその家族が多いため、心のケアがとても大事になってくることが大きな特徴です。
3.ICUで働く看護師の役割
ICUで働く看護師の主な役割は5つあります。
- モニタリング
- バイタルサインチェック
- 日常生活の看護
- 医療機器の操作
- 受け入れ、送り出し
それぞれ見ていきましょう。
(1)モニタリング
モニタリングは、患者さんを支えている医療機器の数値を定期的に確認すること。
頻繁に数値を管理することで、急変する可能性がある患者さんの早期発見につながります。
ICUで使用される主な機器は、以下の通りです。
- 心電図モニター
- 完結的静脈圧モニター
- 中心静脈圧モニター
- シリンジポンプ
- 輸液ポンプ
- 人工呼吸器 など
ICUの看護師は、モニタリングでは正確な記録をつけることはもちろん、小さな数字の変化から患者の体の状態を読み取ります。
頻繁にモニタリングを行うことで急変に備えることができるので、とても重要な仕事です。
(2)バイタルサインチェック
バイタルサインチェックは、主に「脈拍」「呼吸」「体温」「血圧」「意識レベル」5つの綿密な観察を行うこと。
日々の計測データのや目視・体感で些細な変化に気付くことができれば、病状悪化サインの早期発見につなげることができます。
特にICUでは言葉を発することができない状態の患者さんに対して、声なき声を受け取れるようになるように努めましょう。
バイタルサインチェックで、計測器の情報や体感・目視を行うことは患者さんの命を支える看護師の重要な仕事です。
(3)日常生活の看護
ICUは一般病棟よりも看護を求められる場面が多くあります。
なぜなら、体を動かせない患者さんや意思表示ができない患者さんが多いため。
ICUの日常生活の看護は、体を清潔に保つための清拭や口内のケア、食事の介護を行います。
また、爪切りや髭剃りも含まれるのです。
そのほかにも、患者さんが快適に感じられるよう体位変換を行うことや、サーカディアンリズムケアを行ってあげます。
このサーカディアンリズムケアを行うことで、体内時計の朝夜リズムをつけて健康的に暮らせるようにもアプローチできるわけです。
社会復帰の第一歩になるために、患者さんの日常生活の看護してあげることは重要な役割となるでしょう。
(4)医療機器の操作
医療機器の多いICUでは看護師が医療機器の操作や、医療機器が正常に機能しているかの確認は重要な役割。
ICUでは患者さんの症状や状況にあった医療機器で身体を守っているので、看護師が必要に応じて操作することがあるからです。
例えば、患者さんの緊急時に医師や臨床検査技師のサポートとして、人工呼吸器や輸血ポンプなどの医療機器を看護師が指示に従い操作します。
医療機器を正しく操作し、必要な時に必要な医療を提供することがICU看護師の役割です。
(5)受け入れ・送り出し
受け入れは、術後の患者さんをICUに受け入れること。
送り出しは、容体が安定した患者さんを一般病棟に移すことです。
ICUの看護師は、受け入れと送り出しのスケジュールを把握し準備することで、病棟間の移動をスムーズに行えるようにします。
例えば、点滴や身の回りのものの整理を行うことや、ベットや必要医療機器を揃えること。
送り出しの時は、必要であれば移動先の科の看護師や医師へ患者さんの情報を伝えます。
受け入れ、送り出しが一般病棟に比べて多いICUでは、ほとんど毎日のように行う看護師の役割です。
4.ICUで働く看護師の労働環境
ICUで働く看護師の労働環境について以下の3つの側面から説明します。
- 代表的な日勤・夜勤の流れ
- 1日のタイムスケジュール
- 患者担当人数
ここではICUで働くことをより具体的にイメージすることができます。
(1)代表的な日勤・夜勤の流れ
医療機関により違いはありますが、一般的な日勤と夜勤の流れは以下のようになります。
日中勤務の場合 | 8:00始業、18時記録や引き継ぎをして終業。(12時から1時間お昼休憩を挟む) |
夜間勤務の場合 | 16:30始業、9:00記録や引き継ぎをして終業。(0時あたりから交代で仮眠休憩) |
日勤と夜勤の時間が重なった時間に、業務の引継ぎを行い、24時間患者さんを管理する体勢を作っています。
ICUでは夜間も気を抜くことができず集中力が求められるため、仮眠休憩でしっかりと休み、業務に支障なく戻れる体にすることが必要です。
(2)1日のタイムスケジュール
日中勤務の1日のタイムスケジュールの一例をご紹介します。
タイムテーブル | 作業内容 |
---|---|
8:00 | 情報収集(現在入院している患者の状態に関する情報や、他病棟に移動できる人、術後入院する患者の確認) |
9:00~12:00 | バイタルサインチェック、モニター数値確認、オペ準備、清拭や食事介護 |
12:00~13:00 | お昼休憩 |
13:00 | 一般病棟への送り出し |
14:00 | 各診療科医師たちとカンファレンス |
15:00~17:00 | 患者のバイタルサインチェック、検温、手術のお迎え、点滴チェック |
17:00 | 夜勤への申し送り |
18:00 | 記録、片付け |
では、患者担当人数はどうなっているのかも見ていきましょう。
(3)患者担当人数
ICUで働く看護師の担当患者人数は、患者2名につき1名以上を常時配置することと厚生労働省が定めています。
そして、必要時には患者1.5名に月1名以上の看護師を配置できる体勢を整備。
夜間などの人員が少ない時は、勤務年数の長い人を配置するなど必要な人材を配置することが推奨されています。
一般病棟の看護師の患者担当人数より少ないのは、ICUでは重篤患者が多いためです。
例えば、6人患者さんが入院している場合、看護師は常時3人いるという環境ですね。
ICU1人の看護師の患者担当人数は、一般的には患者2名となります。
5.ICU看護師と一般病棟看護師の給与比較
ICUで働く看護師と一般病棟で働く看護師は基本給に違いはありません。
しかし、ICUで働く場合は深夜勤務手当が多くなったり、危険手当などが含まれる職場の場合は、平均年収より高くなることがあります。
2020年度版の最新の厚生労働省の調査によると、女性看護師の平均年収は482万9100円で、男性看護師は496万800円。
ICU看護師と一般病棟看護師給与は、ICU看護師勤務の方が手当ての影響で少しだけ高くなることが多いです。
6.ICUで働く看護師はどんな人に向いてる?
ICU看護師の特徴や役割を考慮すると、適性は3つあります。
- 早い判断能力がある人
- 協調性が高い人
- 貪欲に学ぶ姿勢がある人
それぞれ理由を詳しくご紹介していきます。
(1)早い行動ができる人
ICUで働く看護師は、早い行動ができる人が向いています。
なぜなら、ICUでは容態の急変があるので医師などの指示に従い、必要な処置の行動を素早くしなければ、患者さんの命を危機にさらしてしまうからです。
例えば、緊急時には医師が必要とする物品を渡すことや、医療機器の補助を素早く行います。
緊急性が高いICUでは、安全を確保しながら冷静に早い行動ができる人が向いています。
(2)協調性が高い人
ICUでは協調性の高い人が適性。
1人の患者さんに対してICUでは、多くの医療従事者と協力し合うことことが必須だからです。
ICUで働く医療従事者は、専従の医師、看護師、薬剤師、セラピスト、臨床工学技士、臨床検査技師、栄養管理士など。
チームで働くことができる協調性の高い人がICUの看護師として向いています。
(3)貪欲に学ぶ姿勢がある人
ICUで働く看護師は、学び続けられる人が向いています。
病院の中で最も知識が求められるのがICUの看護師だからです。
学んでも学んでも足りることはありません。
現役で活躍するICUの看護師は、積極的に院内外の研修に参加しています。
研修やセミナーの内容は病態生理だけではなく、倫理・心理や最新の医療機器の操作方法など。
新しい知識を貪欲に学んでいく姿勢の人がICUの看護師の適性です。
7.ICUで看護師として働くための資格とその勉強方法
ICUの看護師として働くためには必須資格はありません。
しかし、重篤患者の看護を行うのでICUで働くことを自ら希望する場合は、取得を推奨される資格があります。
推奨される3つの資格は
- BLS
- ACLS
- JPTEC
患者さんの全身の状態を総合的に判断するICUでは、資格を通じて取得した専門分野の知識が多いに役立つでしょう。
推奨される3つの資格の内容や取得方法をご紹介します。
BLS
BLSはBasic Life Supportのことで一次救命処置の意味です。
人命救助するために必要な処置を迅速に行うことができるように考えられたプログラム。
ICUでこの資格が推奨されている理由は、心臓マッサージや人工呼吸、ADEの使用を行えるようになることができるからです。
BLSの資格を取得するには、日本BLS協会が定める講習会に参加してコース修了と認定試験に合格すること。
講習は1日だけですが、6〜7時間程みっちりと講義や実技指導を受けることができます。
受講料は18,100円。
ACLS
ACLSはAdvanced Cardiovascular Life Supportのことで二次心肺蘇生法の意味です。
医療従事者によって行われる高度な心肺蘇生処置で、救命救急や循環器領域に関わる人にとっては不可欠な内容。
この資格で取得できる知識や実技は、命の危機に瀕する患者さんに対する処置のサポートに多いに役立ちます。
資格を取得するためには日本ACLS協会が行っているACLSプロバイダーコースを受講。2日間約16時間程度の講義と実技指導があります。
実技試験と筆記試験に合格することができれば、資格取得。(筆記試験は84%未満だった場合、当日に1回のみ再試験を行うことができます)
受講料は39,890円。
JPTEC
JPTECは救命救急士などが受講する外傷教育プログラムで、Japan Prehospital Trauma Evaluation and Careの頭文字をとっています。
外傷的ダメージを負った人が病院に運ばれる前の適切な処置を行えるようになる資格です。
この資格の知識と実技で、素早い救命処置の役に立ちます。
JPTECの資格取得には、JPTEC協議会のプロバイダーコースを受講し、筆記試験に合格すること。
ICUの看護師を目指しているのであれば、休みの日などを利用して資格を取得してみてはいかがでしょうか。
8.ICUで働く看護師が良かったと思うこと・大変だと思うこと
ICUで実際に働く看護師が良かったと思うこと、大変だと思うことをそれぞれご紹介します。
良かったと思うこと
- 重篤だった患者さんが回復に向かう姿を見ていくことにやりがいを感じる
- 一般病棟で経験できないことをICUでは経験できる
- ICUでは常に専従の医師がいるため、医師の近くで医療についての知識を増やせる
ICUの看護師として知識や経験を積んだ後に、救命や呼吸器科などに異動をしてさらなるキャリアアップをする看護師もいます。
大変だと思うこと
- 悲しい場面に多く立ち会わなければならない
- 夜勤が多くなりがち
精神的にも体力的に続けられるかどうかしっかり見極めていきましょう。
まとめ
ICUの看護師は、重篤な疾患を持った患者さんの社会復帰の第一歩に向けて最善を尽くす大きな役割があります。
知識は看護師の中でも一番に求められる現場。
プレッシャーや責任が伴いますが、その分回復する患者さんをそばで感じることがやりがいにつながります。
ICUの看護師としてキャリアアップを目指す場合、資格の勉強など新たなチャレンジをしてみてはいかがでしょうか。