「民間病院に勤務して3年目、給料は上がったけれど、月72時間の夜勤でとてもハード」
「看護師としての経験値が増えた一方、将来を考えるとこの病院でいいのだろうか」
現在看護師としてお勤めの人で、上記のような悩みをお持ちの人も多いですよね。
本記事では、2020年の離職率の傾向や離職率が高い病院の特徴を詳しく紹介します。
まずは、病院の種類や病床数によって大きく異なる離職率を把握しましょう。
そうすることで、結婚や出産・育児などライフステージに合わせた、自分らしい病院選びのコツを掴めるはずです。
さっそく見ていきましょう!
目次
1.看護師の離職率はそこまで高くない!
「看護師の仕事は3Kだ」ということはよく耳にする話です。
いわゆる、きつい・汚い・危険の3拍子そろった職場ということですね。
最近では3Kならぬ、9Kという言葉まで叫ばれています。
- きつい
- 汚い
- 危険
- 給料がやすい
- 薬が手放せない
- 化粧が禁止
- 規則が厳しい
- 休暇がとれない
- 婚期が遅い
ここまで聞くと、看護師の離職率は他の職業と比べて、さぞかし高いのだろうなと想像しますよね。
結論からいうと、看護師の離職率はそこまで高いといえません。
看護師の離職率は10.7%で、全職種の離職率より低いという調査結果が出ているからです。
厚生労働省が発表している平成30年雇用動向調査結果によると、平成30年全職種における離職率は14.6%です。
一方、看護師の離職率は11%弱なので、意外にも看護師の離職率は高くないことがわかります。
では、次の章では2020年の最新の看護師離職率について、さらに検証していきましょう。
2.2020年最新看護師離職率の検証4つ
実は、離職率の基準を知るためにさまざまな項目があります。
ここでは2019年 病院看護実態調査を参考に、以下の項目ごとの離職率について見ていきましょう。
今回検証する離職率の項目は以下の4つです。
- 正規雇用・新卒・既卒別の看護師離職率
- 病床規模別の看護師離職率
- 設置主体別の看護師離職率
- 都道府県別の看護師離職率
1つずつ見ていきましょう。
検証1.正規雇用・新卒・既卒別の看護師離職率
まずは、新卒と既卒で離職率に違いがあるか見ていきましょう。
2018年度における正規雇用・新卒・既卒別の離職率は、以下の通りです。
- 正規雇用全体の離職率:10.7%
- 正規雇用の新卒者の離職率:7.8%
- 正規雇用の既卒者の離職率:17.7%
(※既卒者とは、新卒ではない看護職経験者)
新卒者より既卒者の方が、離職率は倍以上に高いという結果が出ています。
女性が多い看護職においては、結婚・出産・育児などライフステージの変化が、キャリアに影響を与えるからかもしれません。
検証2.病床規模別の看護師離職率
続いては、病床規模別の離職率についてみていきましょう。
2019年 病院看護実態調査から、前年2018年度の病床規模別の新卒・既卒、各離職率を抜き出した表が以下になります。
2018年度病床規模別の看護師離職率 | |||
---|---|---|---|
病床数/雇用者 | 正規雇用者全体 | 正規雇用新卒 | 正規雇用既卒 |
全体 | 10.7% | 7.8% | 17.7% |
99床以下 | 11.5% | 11.3% | 25.7% |
100〜199床 | 11.5% | 9.5% | 19.6% |
200〜299床 | 11.0% | 7.9% | 16.7% |
300〜399床 | 10.6% | 6.8% | 15.0% |
400〜499床 | 10.2% | 8.3% | 14.1% |
500床以上 | 10.4% | 7.4% | 11.7% |
ご覧の通り、正規雇用全体・正規雇用新卒・正規雇用既卒とも、99床以下の病院が最も離職率が高いという結果でした。
この理由は定かではありませんが、病床数=病院規模によって、離職率が違うことは明らかな事実のようです。
ですので、長く働ける病院を探すなら、このような観点も頭に入れておきましょう。
検証3.設置主体別の看護師離職率
続いて、国立や公立といった設置主体別の2018年度看護師離職率について、見ていきましょう。
2018年度設置主体別の看護師離職率 | |
---|---|
設置主体/雇用 | 正規雇用 |
全体 | 10.7% |
国立 | 10.2% |
公立 | 7.8% |
日本赤十字社 | 8.8% |
済生会 | 12.1% |
農協 | 8.6% |
その他公的医療機関 | 17.0% |
社保関係団体 | 10.8% |
公益社団・財団法人 | 11.3% |
私立学校法人 | 12.0% |
医療法人 | 13.2% |
上記によると、正規雇用の既卒看護師においては、公立病院が最も離職率が低いという結果でした。
理由としては、以下の2点が考えられます。
- 公立病院の看護師は公務員扱いであること
- 雇用条件も公務員に準じていること
公立病院の看護師は公務員扱いになり、有給休暇・産休育休・時間外手当・賞与なども公務員の規定通り支給されます。
また、退職金や年金なども保証されているので、生涯働きやすい環境だといえますね。
一方で、民間病院では産休育休の取得実績がなかったり、経営状況が悪化すれば給与が削減されたりと、不安定な場合もあります。
こういった点を考慮すると、公立病院の離職率が低い理由に納得できますね。
検証4.都道府県別の看護師離職率
都道府県別の離職率ですが、大都市圏での離職率が高い傾向でした。
参考までに関東エリアの看護師離職率を表にしたので、見てみましょう。
2018年度関東エリアの看護師離職率 | |
---|---|
茨城県 | 9.0% |
栃木県 | 9.2% |
群馬県 | 8.1% |
埼玉県 | 12.4% |
千葉県 | 12.8% |
東京都 | 14.5% |
神奈川県 | 13.1% |
表の通り、東京・神奈川・千葉・埼玉など人口の多い都市での離職率は、それ以外の3県に比べて高いことがわかります。
また、関東圏で離職率の高い1都3県は、看護師全体の離職率10.7%と比べても高いという結果でした。
看護師の離職率は都道府県によっても異なるようです。
ここまで、雇用形態や病床規模、設置主体、都道府県ごとの離職率について見てきました。
こうした傾向を踏まえて、次に看護師の離職率が高い病院の特徴を見ていきます。
3.看護師の離職率が高い病院の傾向3つ
先ほどは雇用携帯や病床規模など、様々な視点からの離職率を紹介しました。
その検証から得られた離職率の傾向をもとに、離職率の高い病院の傾向を紹介します。
離職率の高い病院は、以下の通りです。
- 病床規模が小さい
- 国公立病院よりも民間・個人病院に多い
- 地方よりも都市部に集中している
1つずつみていきましょう。
傾向1.病床規模が小さい
病床数が99床未満の小規模に該当する病院は、離職率が高い傾向にあります。
理由ははっきりとしていませんが、中・大規模病院よりも時間的拘束など、看護師の負担が大きいのかもしれません。
また、小規模病院では入職後の研修制度や待遇面が整備されていないことも多く、働き方に不安を感じる看護師も多いようです。
傾向2.国公立病院よりも民間・個人病院に多い
2019年 病院看護実態調査をみると、国公立病院か民間・個人病院かによっても離職率が大きく異なります。
特に民間・個人病院での離職率が高い傾向にあります。
自治体病院や日赤などの公的病院は、公務員に準じた雇用条件です。
一方、民間・個人病院については、公務員並みの待遇を用意するのはなかなか難しいといえます。
こうした待遇の差が、離職率の差にもつながっているのかもしれませんね。
傾向3.地方よりも都市部に集中している
看護師の離職率が最も高いエリアは、東京の14.5%という結果でした。
関東圏で比べても埼玉や神奈川など、人口の多い都道府県の離職率は高いという結果が出ています。
地方だとそもそも病院数に限りがあるため、転職者は病院を選べないといった事情も影響しているかもしれません。
ここまで離職率の高い病院の傾向を紹介しました。
離職率の多い病院の特徴が理解できたところで、次章は気になる看護師の離職理由について紹介します。
4.気になる看護師の離職理由4つ
前章では、離職率の高い病院の傾向を紹介しました。
では、看護師はどのような理由で離職しているのでしょうか?
ここでは看護師の離職理由について紹介します。
離職理由として多いものは、以下の4つです。
- 労働環境に不満がある
- 職場の人間関係がつらい
- ライフイベントで辞めざるを得ない
- スキルアップしたい
1つずつみていきましょう。
理由1.労働環境に不満がある
看護師の離職理由の1つ目は労働環境への不満です。
人手不足による長時間残業や夜勤回数の多さなど、看護師への負担は計り知れないものがあります。
また、休日参加の研修会や残業代が発生しないなど、待遇面での不満も大きいでしょう。
理由2.職場の人間関係がつらい
職場の人間関係がつらいということも、離職理由の1つです。
看護師は同僚だけでなく、PTや医師など他部署とも連携を取らなければなりません。
さらに、患者さんとも密なコミュニケーションを求められるため、人間関係でストレスが溜まりやすいのも理解できます。
ましてや、日々の業務に追われて気持ちにゆとりがなくなると、人間関係の負担は重くのしかかるでしょう。
理由3.ライフイベントで辞めざるを得ない
女性看護師の場合には、結婚・出産・育児等のライフイベントも、離職理由として挙げられます。
結婚にともない住む場所が変わる・出産を機に一度退職するなど、ライフイベントをきっかけに仕事を辞める女性は多いです。
そのほか、育児中は夜勤はできないなど、思ったような働き方ができずに悩む看護師も多いはずです。
最近では、働く看護師のために院内託児所を設置したり、育児休暇後の復職をサポートしたりする病院も増えてきました。
とはいえ、全国的に普及しているとはいえず、まだまだライフイベントによって左右されてしまう看護師が多いのも現状です。
理由4.スキルアップをしたい
離職と聞くと、どうしてもネガティブな印象をもってしまいますが、前向きな離職も存在します。
具体的には、以下のような場合です。
- 専門分野を磨くため希望する専門科に特化した病院へ転職したい
- 認定看護師取得のために認定看護教育機関に通いたい
- 留学して海外の看護ケアについて学びたい
離職の理由の中には、こうした前向きなものも含まれることを覚えておいてくださいね。
次章では働きやすい病院選びに重要な、離職率が低い病院の選び方について紹介します。
5.看護師の働きやすい病院を見分けるポイント6つ
ここまで、看護師の離職率の傾向や離職率の高い病院の特徴を紹介しました。
ここでは、それらを踏まえて離職率の低い病院の選び方を解説します。
離職率の低い病院の選び方は次の6つです。
- 病床数(病院規模)
- 民間か国公立か
- 急性期病床か回復期・慢性期病床か
- 基本給や賞与
- 有給消化実績
- 既婚者の割合や産休・育休実績
1つずつ見ていきましょう。
ポイント1.病床数(病院規模)
2019年 病院看護実態調査の内容でもお伝えした通り、99床未満の病院では離職率が高い傾向にあります。
一方で、200〜300床以上の病院になると離職率が低下します。
この差がでる理由ははっきりとは分かりませんが、病院規模で離職率が違うのはデータとして出ている事実です。
離職率の低い病院を探すという点では、病床数は1つの目安になるでしょう。
ポイント2.民間か国公立か
離職しづらい病院選びを重視するなら、病床数のほかに国公立か民間かという点にも着目しましょう。
なぜなら、私立病院より国公立のほうが離職率が低いからです。
国立・公立病院は病院運営に税金が投入されています。
つまり潤沢な運営費があるため、勤務する看護師の雇用条件も安定し、働きやすい環境が整っています。
ただし、国公立病院で働くデメリットは、能力的に優れていても給料は年功序列型という点です。
さらに、安定と引き換えに副業やWワークも禁止されているため、そういった点では民間病院の方が柔軟ですね。
また、国公立病院は働きやすいものの、公務員試験に合格しなければなれません。
待遇が良いということは、それだけ競争率も上がります。
良い待遇で働くためには、難関を突破する必要があることも注意しておきましょう。
ポイント3.急性期病床か回復期・慢性期病床か
離職率の低い病院を選ぶなら、その病院がどのような病床機能を持つかにも注目しましょう。
なぜなら、自分の希望と違う機能の病院を選ぶと、ミスマッチから離職に繋がる可能性があるからです。
病院には地域の特徴や患者の特徴によって、大きく分けて3つの機能が存在することをご存じでしょうか。
以下の3つをご覧ください。
- 急性期機能:病気やケガになりかけ・症状が目まぐるしく変わる患者を多く扱う
- 回復期機能:急性期を抜けて回復を目指す患者を多く扱う
- 慢性期機能:病状は安定していて長期的に治療を行う患者を多く扱う
急性期機能の病院は患者の病状が刻一刻と変化するため、それに対応するスキルが求められます。
急性期機能の例は大学病院です。
大学病院では、一般的に治療が困難な急性期の患者様も多いですよね。
また、最先端の治療を取り入れているのも特徴です。
一方、高齢者の多い地域の病院では、回復期・慢性期機能を担う病院も多いでしょう。
例えば、あなたが急性期病床が得意でないのに、給料が良いという理由で急性期病院を選ぶとミスマッチが起こります。
無理して働いていても、業務についていけず離職につながるかもしれません。
そのため、自分は看護師としてどのような看護を希望するか、そしてそれが病院の機能と合うかを見極めて選びましょう。
また、それぞれの機能により学べる内容も違ってきます。
急性期医療では最新医療や対応力など、看護師としての技術の幅を拡げられます。
一方、回復期・慢性期病院では緩和ケアが中心の技術を習得できますよね。
このように、自分が目指す看護師像に合うかどうかも、考慮して病院を選ぶべきです。
そこが欠如してしまうと、なりたい自分から遠のき、仕事のやりがいにつながらないからです。
ぜひ、これまでの看護師経験を考慮して、自分にあった病床の種類を選択してください。
ポイント4.基本給や賞与
看護師として離職が少なく、働きやすい病院に転職するなら、基本給と賞与はしっかり確認しましょう。
なぜなら、総支給額が30万円でも、基本給が20万円なのか25万円なのかで、支給される賞与が異なるからです。
単純に賞与2ヶ月分のボーナスが支給されるなら、以下のような違いがありますよね。
- 基本給20万円:ボーナス40万円
- 基本給25万円:ボーナス50万円
給料と働きやすさは密接なだけに、基本給をしっかり確認するクセをつけておくと良いでしょう。
また、看護師の場合は7:1または10:1の看護体制によっても、給与に差が出ることもあります。
ぜひ、このあたりも踏まえて病院選びの参考にしてくださいね。
ポイント5.有給消化実績
離職率が低い病院を選ぶ際は、有給消化率についても着目しましょう。
勤務する病院によっては、有給を取得できないほど過重労働の場合があるからです。
たとえば、面接で有給消化率について聞いてみて、具体的な回答が得られなかったら注意が必要かもしれません。
できる限り口コミを調べて、きちんと有給が消化されているか確認したいところです。
日々、過酷な現場で仕事をする看護師だからこそ、しっかり体を休められるかも重要ですよね。
有給消化実績の多い病院ということは、代わりの看護師も多いことを意味し、働きやすい病院であると想像できます。
夏季休暇・冬季休暇・有給休暇の日数だけでなく、消化実績に着目してください。
ポイント6.既婚者の割合や産休・育休実績
ライフステージによって働き方が大きく変わる看護師だけに、産休や育休実績について確認しておきましょう。
既婚者が多く、産休や育休の実績も豊富なら、子育てのしやすい病院だといえるからです。
育休取得可能と記載されていても、肝心の実績がない場合には注意が必要です。
また、産休や育休実績が豊富な病院には院内託児所が存在したり、復職サポートが充実していたりする場合もあります。
こちらもセットで確認してみると良いですね。
まとめ
ここまで看護師の離職率についてお話してきました。
看護師の離職率は、他業種と比較しても特別高いわけではありません。
しかし、離職の傾向をみると看護師ならではの理由がありました。
離職率の低い病院の選び方を参考に、あなたにあった転職先・病院選びをしてみましょう。