介護師

介護の三原則とは?【心に刻みたい三つの柱】悩んだ時に思い出そう

「介護の三原則」という言葉を聞いたことがありますか?

介護は単に人のお世話をすれば良いという職業ではなく、時に人の尊厳にも関わる重要な職業です。

介護の三原則は、今後どんなキャリアに付くことがあっても基本になる、大事な三つの柱。

しかし介護の現場が忙しくて、なかなか基本を振り返ることも少ないでしょう。

知っているという方も、知らない方も、ぜひこの機会に介護の三原則について考えてみてください。

1.介護の三原則を意識するメリットは5つ

まずは、介護の三原則を意識するメリットを、下の5つに分けてお話していきます。

  1. 介護職員としての心構えを持つことができる
  2. どう対処して良いかわからなくなった時の指標になる
  3. 利用者の認知症などの症状の悪化を防ぐ
  4. 利用者とのコミュニケーションが良くなる
  5. 利用者が持っている力を引き出せる

では、それぞれ見ていきましょう。

メリット1.介護職員としての心構えを持つことができる

介護の三原則を意識すると、介護職員としての基本的な心構えが持てます。

介護の三原則には、日々の介護を行う上で基本となる考え方が、三つの柱として述べられているからです。

例えば、これまで生活していた自宅から施設へと移動してきた利用者の不安に対して、介護者はどう取り組むべきなのか?

また、利用者の希望と介護現場でできることが異なる場合、どちらを優先すれば良いのか?

さらに、利用者をどこまでサポートすれば良いのかなどの、基本的な考え方についても示されています。

介護の三原則を意識することで、介護職員としての心構えが持てるのです。

メリット2.どう対処して良いかわからなくなった時の指標になる

介護の三原則は、どう対処して良いかわからなくなった時の、指標になります。

介護にあたる際に「何を優先して考えれば良いか?」「何を目標として介護するのか?」の明確な答えが、介護の三原則にあるからです。

介護の三原則を思い起こすと、利用者が本当に求めていることを汲み取り、必要なサポートがわかるようになるでしょう。

例えば、お風呂に入るのを嫌がる利用者に「お風呂に入らないと臭くなりますよ」と言っても、聞いてもらえないかも知れません。

お風呂に入りたくない理由は何なのでしょうか?

もしかしたら、お風呂に利用者の嫌いな物があるのかもしれません。

また、自宅では夜寝る前に入浴していたので、まだ入りたくない場合もあります。

何が原因なのか、上から追求するのではなく利用者の目線で問いかけ、答えを探すことが必要なのです。

介護の三原則は、日々の介護に悩んだ時の大切な指標になるでしょう。

メリット3.利用者の認知症などの症状の悪化を防ぐ

介護の三原則を意識して介護にあたると、認知症などの症状の悪化を防ぐことができます。

生活環境の突然の変化は認知症を悪化させる可能性があります。

しかし介護の三原則では、利用者のこれまでの生活環境を守ることをすすめているからです。

例えば、利用者がこれまで使っていた家具を部屋に置くことで、安心できるかも知れません。

家族の写真を見ながら話を聞いたり、好きな音楽を聞いたりすることで、落ち着く方もいらっしゃいます。

介護の三原則を意識することは、環境の変化による認知症の悪化を防ぐことにも繋がるのです。

メリット4.利用者とのコミュニケーションが良くなる

介護の三原則を意識することで、利用者とのコミュニケーションが良くなります。

介護の三原則では、何よりも用者の気持ちや希望を尊重し、最優先するからです。

例えば、お孫さんが遊びに来て喜ばれていたら「今日はお孫さんが来られてよかったですね!」と共感しましょう。

朝ごはんを食べたくない利用者には「今日はそういう気分なんですね」と、受け入れましょう。

利用者の気持ちに寄り添った上で、なぜ朝ごはんを食べたくないのかを聞き取り、慎重に対処していくことが大切になります。

そのような努力の積み上げによって、利用者とのコミュニケーションが良くなっていくのです。

メリット5.利用者が持っている力を引き出せる

介護の三原則を意識すると、利用者が持っている力を引き出すことができます。

介護の三原則では必要以上のサポートを禁じ、本当に必要なサポートだけを的確に行うことをすすめているからです。

例えば、右手が不自由な方の衣服の着脱時なら、左手だけでできることは自分でしてもらい、できないことだけをサポートします。

片手でも着脱できる衣類もあるので、そういう衣類に変えると全て自分でできるかも知れませんね。

最低限必要なサポートだけを的確に行うと、利用者は自分でできたことに自信を持ち、さらに力を発揮する意欲を持てるでしょう。

介護の三原則を意識することで、利用者が持っている能力を引き出せるのです。

2.介護の三原則とは?

介護の三原則とは

介護の三原則とは1982年にデンマークで生まれた介護についての基本的な理念で「高齢者福祉の三原則」「アナセンの三原則」とも呼ばれています。

定めたのは当時のデンマークの福祉省に設置された高齢者問題員会で委員長を務めた、ベント・ロル・アナセン氏です。

この、介護の三原則は、以下の3つの理念から成っています。

  1. 生活継続の原則
  2. 自己決定の原則
  3. 残存能力活用の原則

では、ひとつずつ解説していきましょう。

(1)生活継続の原則

生活継続の原則とは、利用者がこれまでの生活と変わらない日常が送れるように、サポートすることです。

例えば、これまで朝は、ご飯とお味噌汁といった和食を食べていた利用者が、今日から突然トーストとコーヒーという朝食に変わったら、きっと戸惑いますよね。

生活環境が変わることは、介護を受ける側にとって想像以上の大きな負担になります。

認知症を患っている方だったらなおのこと、突然の生活環境の変化によって、症状が進んでしまう場合もあるのです。

生活継続の原則は、利用者がこれまでと変わらない日常を送るための、大切な理念だと言えるでしょう。

(2)自己決定の原則

自己決定の原則とは、介護の主体は介護をする側ではなく、介護をされる側にあるということです。

たとえ高齢になって体や心が変化しても、自分の人生についての決定権は利用者自身にあり、家族や介護職員が決めるべきではありません。

例えば、有料老人ホームに入るのか、自宅でのケアを続けるのか、という選択に迫られる場合があります。

そんな時も、本人の希望を最優先した上で、可能な方法を考えていくことが大切でしょう。

どんな生活を送りたいか、どんな介護が受けたいか、全て利用者本人に決定権があると考えるのが、自己決定の原則です。

(3)残存能力活用の原則

残存能力活用の原則とは、利用者が自分でできることは可能な限り自分で行ってもらうという考え方です。

介護者がサポートするのは最低限にとどめます。

行き過ぎたサポートは、利用者の「やりたい気持ち」や「できること」を奪ってしまうからです。

例えば、右手が動かない利用者であれば、左手でできる限りのことを行うなど、福祉用具も活用しながら、今ある能力を最大限に引き出して行きます。

利用者が自分でできることは自分でやってもらい、介護者はあくまでも最低限のお手伝いにとどめるのが、残存能力活用の原則です。

3.介護の三原則が生まれたデンマークは福祉の超先進国!

介護の三原則が生まれたデンマークは、世界幸福度ランキングで、何度も1位になっている国です。

デンマークでは、消費税が25%、所得税が50%越えと非常に高額となっています。

にもかかわらず国民の満足度が高いのは、日本では考えられないほど福祉が充実しているからでしょう。

例えば、デンマークは出産に掛かる費用が無料です。

また、幼稚園から大学まで、全ての教育費が無料。

さらに、年金制度には「国民年金」「早期退職年金」「労働市場不可年金」の3つが用意されているのです。

このように、デンマークでは税金が高い代わりに、国からの手厚い保障が受けられます。

幸福度が高く、福祉や介護のケアも充実しているのが、デンマークの特徴です。

施設介護より在宅ケアを推奨

デンマークの老人介護は、施設介護から在宅ケア中心移り変わっていっています。

介護の三原則に基づき、行き過ぎたケアよりも在宅で自立した生活をおくるためです。

高齢者の自宅を介護職員が24時間巡回するという態勢を取ることで、無理のない在宅ケアを実現しています。

また、非常に福祉が進んでいるデンマークですが、優れているのは福祉だけではありません。

「介護の三原則」からわかるように、高齢者に対する考え方そのものに、見習う部分がたくさんあるのです。

私たちは、介護の三原則を介護現場でどのように活かせば良いか、次の章で考えていきましょう。

4.介護の三原則を日々の介護現場に活かそう

介護の三原則の活用方法

日本ではまだまだ、高齢者のケアについて、介護側主体で決められていることが多いのが現状です。

しかし、現場での心がけ次第で、変われることもあるのではないでしょうか?

介護の三原則を現場に活かしていくために心掛けたいことについて、下の5つのアクションにまとめてみました。

  • 利用者を1人の人間として尊重しよう
  • 利用者のペースに合わせて動こう
  • 自分のことに置き換えて考えよう
  • 表情やしぐさをよく観察して気持ちを汲み取ろう
  • 自分の家族に対するように、愛情を持って接しよう

では、ひとつずつ見ていきましょう。

アクション1.利用者を1人の人間として尊重しよう

たとえ寝た切りの方や、心身が不自由な状態にある方でも、利用者を1人の人間として尊重しましょう。

ベッドで寝ている利用者は、漠然と見ているだけでは、皆同じように見えるかも知れません。

しかしそこに至る事情や背景は、一人ひとり異なるのです。

好みや考え方も、一人ひとり違って当然ですね。

例えば、ベッドの置き場所ひとつでも、明るい窓側を好む人と、人の声が聞こえる廊下側を好む人がいます。

そんな細かい要望を汲み取って応えていくことが、利用者を尊重することに繋がるのです。

アクション2.利用者のペースに合わせて動こう

介護者は、利用者のペースに合わせて動きましょう。

たとえゆっくりでも、利用者のペースに合わせることが、残存能力の活用に繋がるからです。

例えば、杖をつけばゆっくりと歩ける利用者を車椅子に乗せると、確かに早く移動できます。

しかし、過ぎたサポートは利用者の能力を奪ってしまうことに繋がり、身体能力の低下を招きかねません。

介護者は、利用者のペースに合わせて動きましょう。

アクション3.自分のことに置き換えて考えよう

利用者の置かれた状況を、自分のことに置き換えて考える癖をつけましょう。

自分のことに置き換えると、利用者の気持ちが理解できるようになるからです。

例えば、もし理由もわからないままに家族から引き離され、全く知らない人たちの中へ投げ込まれたらどう感じるか、想像してみましょう。

認知症の方にとっては、まさにそんな状況が起きているのです。

自分に置き換えることで気持ちを理解し、辛い気持ちには同情して、嬉しい出来事には一緒に喜ぶ

そんな風に接すると、利用者の不安が小さくなり、穏やかな気持ちになってもらえるでしょう。

利用者の置かれた状況を想像して、自分のことに置き換えて考えることが大切です。

アクション4.表情やしぐさをよく観察して気持ちを汲み取ろう

利用者の言葉を聞くだけでなく、表情やしぐさをよく観察して、気持ちを汲み取るようにしましょう。

高齢の方は特に、周りに対する気遣いや遠慮が強い傾向にあります。

例えば、本当はトイレに行きたくても、職員が忙しそうにしているので遠慮して言い出せないという場面はよくありますね。

言葉には出ていなくても、丁寧に観察していたら読み取れることがあるはずです。

表情やしぐさをよく観察して、利用者の気持ちを汲み取りましょう。

アクション5.自分の家族に対するように愛情をもって接しよう

利用者には、自分の家族に対するような愛情をもって接しましょう。

介護の三原則の根底に流れるのは、他者に対する愛情そのものだからです。

例えば、自分の親が知らない人の中でぽつんと寂しそうに座っていたら、どうしてあげたいと思いますか?

そのように考えることで、常に利用者の心に寄り添った介護ができるようになります。

利用者には、常に自分の家族に対するように、温かい愛情をもって接しましょう。

5.介護の不安や心配・悩み事はどうすればいい?

毎日の介護の仕事はとても忙しく、利用者のためと言いながらも、介護者側の都合のみで動いてしまっていることが多いのが現状です。

そんな中で様々な不安や心配などの悩みに直面した時はぜひ、介護の三原則を思い出して、原点に立ち返ってみてください。

それでも職場の仕組みが悪かったり、人間関係で悩むこともあるでしょう。

そんな時は今の状況をひとつのステップと考え、キャリアアップを目指すのも一つのやり方です。

介護の仕事には様々な道が存在します。

どのキャリアに進んでも、最も大切な理念である介護の三原則は、ずっと心にとどめて置いてくださいね。

まとめ

介護を受ける利用者は、心の中に様々な不安や悩みを抱えています。

なぜ家や家族から離れてこんな所へ連れて来られたのかわからない方や、介護職員が恐くて、思っていることが言えない方もいらっしゃるでしょう。

そんな方々の気持ちを汲み取り、温かな愛情を持って接することが何より大切です。

介護は今もこれからも、社会の中でなくてはならない大切な仕事のひとつに違いありません。

笑顔を忘れずに、仕事に誇りをもって、一歩ずつ前へ進んでいきましょう!