「周りの看護師に無視されて毎日がつらい」
「先輩からの嫌がらせを受けている」
こんな悩みを持つ看護師は多いでしょう。
しかし、上司からの命令に逆らうのは勇気がいりますし、相手が大勢いると「私に問題があるのかも…」と不安な気持ちになります。
職場での無視や嫌がらせなどの行為をパワハラと呼びますが、パワハラの定義とは何なのでしょう。
また、対処法はあるのでしょうか。
この記事では、パワハラの定義や対処法などを詳しく紹介していきます。
パワハラについて正しく知り、対処法を実践することで、明るい毎日を取り戻しましょう!
目次
1.看護師のパワハラの定義
厚生労働省では、以下3つの要件を全て満たした状態をパワハラと定義しています。
また、看護師においてもパワハラの定義は他の職業と同じです。
- 職場での地位や優位性を利用
- 業務上適正な範囲を超えている
- 精神的・身体的苦痛を与える
では、1つずつ見ていきましょう。
要件1.職場での地位や優位性を利用
1つ目の要件は、下のような職場での優位な立場を利用した行為であることです。
- 上司から部下に対する行為
- 多数から少数に対する行為
- 仕事の理解が深い者から浅い者への行為
例えば、まだ転職してきたばかりで、仕事を覚える途中の看護師に対する嫌がらせや、無視などの行為が該当します。
要件2.業務上適正な範囲を超えている
2つ目の要件は、下のような業務の範囲を超えた要求であることです。
- 過酷な環境下で業務につかせる
- 業務に関係のない作業をさせる
- 常識の範囲を超えて何度も行わせる
例えば、看護師長が部下の看護師に、掃除や買い物ばかりをさせて、本来の看護の仕事をさせないといった行為が該当します。
要件3.精神的・身体的苦痛を与える行為を行う
3つ目の要件は、下のような精神的・身体的苦痛を与える行為であることです。
- 必要以上に大声で叱責したり殴ったりする
- 人格を否定するような発言をする
- 長期間にわたって無視し続ける
例えば、後輩の看護師が仕事でミスをすると「生きてる資格がないね」「看護学校からやり直したら?」などと、同僚のいる前で罵るといった行為が該当します。
ここまでの3つの要件が全て満たされると、パワハラの定義に当てはまるのです。
次に、看護師になぜパワハラが多いのか、その理由についてお話します。
2.看護師にパワハラが多い理由
ここまで、パワハラの定義についてお話しました。
次に、看護師にパワハラが多い理由について見ていきましょう。
看護師にはパワハラが多いと言われています。
日本看護協会においても看護職でのハラスメントを問題視しており、パワハラをはじめとするハラスメント対策に取り組んでいるのです。
なぜ看護師にはパワハラが多いのでしょうか。
看護師にパワハラが多い理由として、以下の5つが挙げられます。
- 人手不足でイライラが多い
- 女性が多い
- 業務内容が多岐に渡る
- 評価基準が曖昧
- 閉鎖的な空間
では、順に見ていきましょう。
理由1.人手不足でイライラが多い
看護師は慢性的な人手不足で、イライラしている場合が多いと言えます。
厚生労働省による現状分析でも、看護師の人手不足は深刻な状態です。
このまま進むと、2025年には3万人~13万人の看護師不足が予測されています。
人手不足になると、疲れていても十分な休憩が取れなかったり、夜勤が多くなったりと不満がつのるでしょう。
その不満は、自分より立場の低い人に向かいます。
例えば、仕事のペースが遅い人や仕事に慣れていない新人は、ターゲットになりやすいと言えますね。
人手不足なので仕事をきちんと教えられず、さらにパワハラがエスカレートするという悪循環に陥ってしまうのです。
このように、人手不足によるイライラはパワハラを生む土壌になると言えるでしょう。
理由2.女性が多い
看護師には女性が多いことも、パワハラが起きやすい原因になっています。
なぜなら、同性同士の確執が起こりやすいからです。
例えば、リーダー格の人の周りに従う人が数人つくことで、派閥が生まれます。
いくつかの派閥に入り込めなかった人がいじめやパワハラの対象になるというパターンは、よく見られる現象ですね。
理由は、言葉のすれ違いや考え方の違いなど、外部の人から見るとささいなことがほとんどです。
しかし、それだけに根が深く、解決が難しい問題だと言えるでしょう。
理由3.業務内容が多岐に渡る
看護師の業務内容が多岐に渡っていることも、パワハラが多くなる原因の1つです。
看護師の仕事は医療に関わることだけではありません。
患者の食事や入浴、排せつ、着替えなどの生活全般から話し相手といったことまで、非常に多岐に渡ります。
これが正解といった答えのない業務内容が多いので、揚げ足を取るのは簡単だと言えるでしょう。
例えば、患者の気持ちが紛れるように冗談を言い合っていても、他の人から見ると「仕事をさぼっている」と注意されるかもしれません。
簡単に揚げ足を取ることができるので、パワハラが起きやすいと言えます。
理由4.評価基準が曖昧
看護師の評価基準が曖昧であることも、パワハラが多くなる原因の1つでしょう。
看護師の仕事の最大目標は、安全で質の高いサービスであると言えます。
しかし、何をもって質が高いと言えるかは、上司の判断基準にゆだねられているのです。
例えば、残業の多い看護師に対して、下の2つの評価が考えられます。
- よくがんばっている
- 仕事の効率が悪い
悪い評価を下すことも簡単にできるため、1人を集中してターゲットにすることが容易にできてしまうのです。
評価基準が曖昧であることは、看護師にパワハラが多くなる原因の1つと言えます。
理由5.閉鎖的な空間
看護師の業務が病院という閉鎖的な空間で行われていることも、パワハラが多くなる原因の1つと言えます。
看護師は終業時刻になるまでほとんど外に出ないため、ストレスがたまりやすいからです。
一般的な仕事なら、お昼休みに外の空気を吸うと、気分が切り替わるといったこともありますよね。
しかし、看護師は休憩時間も、病院外に出ることがまずありません。
病院内には同僚や上司との人間関係はもちろん、患者やその家族との関係もあります。
そうした人間関係から、逃れる時間がないのは相当なストレスになるでしょう。
例えば、患者から不条理な要求をされたときに、そのストレスを自分より下の立場の者に向けるなど、パワハラの原因になるのです。
閉鎖的な空間である病院という環境は、ストレスのはけ口としてのパワハラが起きやすいと言えます。
では、こうしたパワハラへの対処法はあるのでしょうか?
次は、看護師のパワハラ対処法について解説します。
3.看護師のパワハラ4つの対処法
前項では、看護師にパワハラが多い理由についてお話しました。
次に、看護師のパワハラ対処法を4つ紹介します。
- 周りに人に相談する
- 証拠を残しておく
- 異動・転職する
- 裁判を起こして慰謝料を請求する
それでは、1つずつ見ていきましょう。
対処法1.周りの人に相談する
まずは、頼りになる上司や先輩、同僚など、周りの人に相談してみることです。
話すだけでも楽になる場合があるし、思わぬ対処法が見つかることもあります。
ただし、口の軽い人に相談するのは避けるようにしましょう。
他で言いふらされると、いつの間にかあなたが悪者になって、噂が広まる可能性があります。
また、パワハラの加害者側の耳に入ると、嫌がらせ行為がさらに悪化する恐れもあるでしょう。
相談する相手は、病院外の友達や家族でもかまいません。
あなたの身になって親身に考えてくれる、口の堅い人を選ぶことが大切です。
対処法2.証拠を残しておく
パワハラがあったことを証明するには、パワハラの証拠を残しておくことが必要です。
もしあなたが責められ、パワハラを証明する必要が起きたときに、証拠があると有利になります。
証拠としては、以下のようなものが考えられるでしょう。
- LINEのやり取り
- ボイスレコーダーやスマホの録音
- 写真
- 日記
- メモ
もしLINEでパワハラに該当しそうなことがあったら、履歴を残しておくことです。
また、日記やメモも証拠になります。
パワハラを受けた内容とともに、日付や時間、関わっていた人の名前などを詳細に書きましょう。
証拠を残しておくと、いざというときに役立ちます。
対処法3.異動・転職する
異動の希望を出したり、転職したりするのも、1つの方法です。
長い間悩んでいるのは精神衛生上良くありませんし、他の職場に移れば、今の問題は全て解決します。
「異動したり転職するのは、自分の負けを認めることになる」と考える人もいますが、決して負けではありません。
例えば、転職して全く別の病院で働くことを想像してみてください。
今あなたを苦しめている人達には、全く会う必要がなくなります。
職場は家族とは違って、リセット可能な人間関係なのです。
異動や転職は最も根本的な解決方法として、有効だと言えるでしょう。
対処法4.裁判を起こして慰謝料を請求
余りにも度が過ぎている場合は、裁判を起こして慰謝料を請求するという方法もあります。
裁判というと日常からかけ離れている感覚を持つ人もいますが、問題解決に向けて必要になる場合もあるでしょう。
弁護士が間に立つことで、損害賠償の請求や刑事告訴も視野に入れることが、可能になるというメリットがありますよ。
しかし、パワハラ訴訟には50~100万円費用がかかることや、裁判後には会社に居づらくなるといったデメリットもあります。
裁判を検討する場合は、メリットとデメリットを考えて、慎重に進めることが大切だと言えるでしょう。
看護師のパワハラの対処法は以上の4つです。
次に、看護師がパワハラにあったときの相談窓口を紹介します。
4.看護師がパワハラにあったときの相談窓口
ここまで、看護師のパワハラ対処法についてお話してきました。
次に、看護師がパワハラにあったときの相談窓口を確認しましょう。
相談窓口には大きく分けて、以下の2種類があります。
- 職場内の相談窓口
- 職場外の相談窓口
では、説明していきます。
(1)職場内の相談窓口
病院や施設内に、パワハラなどのハラスメントに関する相談窓口を、設置しているところもあります。
日本看護協会では、ハラスメント解決のための取り組みとして、相談窓口の設置をすすめているからです。
相談窓口では、相談者のプライバシーが守られた上で、迅速な対処と早期解決に取り組むと定められています。
職場内にそうした相談窓口がない場合には、信頼のおける上司か、職場内の同僚や先輩に相談しましょう。
(2)職場外の相談窓口
病院や施設外の相談窓口に行くという方法もあります。
下は、公的な相談窓口の一覧です。
厚生労働省 総合労働相談コーナー | パワハラ・いじめ・嫌がらせ・解雇・雇止め・賃金の引き下げなど |
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法務省 みんなの人権110番 | 差別・虐待・パワハラなど |
法テラス | 法的トラブル・犯罪被害 |
NPO法人 労働組合相談センター | 職場でのいじめ・嫌がらせ・パワハラ・ブラック企業など |
心の耳 | 働く人の悩み相談窓口・メンタルケア |
以上のような公的な窓口でも、パワハラに関する悩み相談を受けつけています。
病院や施設内に相談窓口がない場合、アドバイスを仰いでみてはいかがでしょうか。
次に、パワハラにあわないためにはどうすればいいのか、お話します。
5.パワハラにあわないためにはどうすればいい
パワハラにあった場合の相談窓口を紹介しました。
では次に、パワハラにあわないためにどうすればいいのかについてお話します。
パワハラにあわないためには、以下の4つに気をつけることです。
- 無理なことははっきり断る
- 堂々とふるまう
- 仕事ができる人になる
- 周囲の人と仲良くなる
それでは、順に見ていきましょう。
(1)無理なことははっきり断る
まず、無理なことははっきり断ることです。
常識をはずれた要求には、悩む必要もありません。
人の良さや気の弱さから受けてしまうと、後でつけ込まれるからです。
「できることは受けるが、できないことは断る」という態度を貫きましょう。
相手が上司や先輩の場合はとても勇気がいりますが、きちんと伝えることで一歩前進できます。
できないことをつい受け入れてしまうと、さらに対人関係の溝が深まり、関係が悪化していくことでしょう。
(2)堂々とふるまう
常に堂々とふるまいましょう。
オドオドしている人はいじめられやすいですが、堂々としている人はいじめにくいからです。
例えば、嫌がらせをされた場合でも、落ち込んだ様子を見せずに「これはどういうことですか?」とはっきり問いかけてみましょう。
最初はかなりの勇気が必要ですが、慣れてくると自然にはっきり言えるようになります。
堂々としたいじめにくい人だと認識されたら、パワハラにあうこともなくなるでしょう。
(3)仕事ができる人になる
仕事ができる人になるために、一生懸命がんばりましょう。
仕事にミスが多いと、大声で叱責される・人格を否定する発言をしてくるなど、パワハラにあう可能性が高いからです。
仕事の能力が高い人は、いじめられにくいと言えます。
例えば、能力の高い人として上司に認められると、パワハラは受けにくくなるでしょう。
仕事をがんばるのも、パワハラを受けないための方法の1つです。
(4)周囲の人と仲良くなる
周囲の人と仲良くなると、パワハラは受けにくくなると言えます。
周囲から孤立していて、味方のいない人はいじめられやすいからです。
例えば、消極的にでもあなたの味方をしてくれた人は、周りにいないでしょうか?
味方になってくれそうな人を探して仲良くなり、人間関係を構築していきましょう。
また、話の合いそうな上司や先輩がいたら積極的に相談して、味方につけることです。
周囲に仲の良い人がいると、いじめられにくくなります。
パワハラにあわないためには、以上のようなことに気をつけましょう。
次に、看護師のパワハラに関するよくある質問にお答えします。
6.【Q&A】看護師のパワハラに関するよくある質問
パワハラにあわないために、どうすればいいかをお話しました。
ここからは、看護師のパワハラに関するよくある質問に答えます。
質問は以下の3つです。
- いじめとパワハラの違いは?
- 上司以外からの被害もパワハラになるの?
- 弁護士に相談するとすぐ裁判になるの?
では、順にお答えします。
Q1 .いじめとパワハラの違いは?
いじめとパワハラには明確な違いがあります。
いじめは法律で定義されていますが、パワハラは厚生労働省で定義されているものの、法律では定義されていません。
いじめは、被害者側が精神的苦痛を感じたら、いじめがあったと認められます。
しかし、パワハラは法的な定義がないため、客観的証拠がなければ行政は動かないのです。
- ボイスレコーダーやスマホによる録音
- 病院の通院記録
- LINEやメールでのやり取り
以上のような証拠を残しておくことで、パワハラがあったと認められます。
パワハラを証明するには、証拠をできるだけたくさん集めておくことです。
Q2 .上司以外からの被害もパワハラになるの?
パワハラとは立場の優位な者から行われますが、立場が優位な者とは、上司に限っていません。
地位に関係なく、立場的に優位なものによるハラスメントがパワハラです。
例えば、新しく配属されてきた看護師のチームリーダーが仕事に不慣れな場合、部下がパワハラをするということもあり得るでしょう。
また、看護師の同僚から受ける無視や嫌がらせも、パワハラだと言えます。
立場の優位性は、地位に限ったものではないのです。
Q3 .弁護士に相談するとすぐに裁判になるの?
弁護士に相談しても、直ちに裁判にはなりません。
まずは相手に警告文を送ったり、病院や施設に対してパワハラの改善を求めたりすることから始めるからです。
パワハラを受けた被害者からすれば、「許せない」という感情でいっぱいでしょう。
しかし、裁判を起こさずに円満解決できることが何より望ましいのです。
例えば、弁護士からのハラスメント中止の要求によって、加害者側が反省して円満解決に導ける場合もあります。
弁護士からの要求があっても改善されない場合は、裁判になるでしょう。
まとめ
この記事では看護師のパワハラにスポットを当て、対処法や相談窓口を紹介しました。
パワハラをはじめとするハラスメント問題は、日本社会で大きな問題となっています。
そして、誰もがパワハラの被害者になる可能性があるでしょう。
パワハラは被害者を苦しめ、職場全体を暗くし、さらに仕事の効率も下げる最悪な行為です。
この記事が、パワハラ被害にあっている人の手助けとなることを、心より願っています。